■1. M&A仲介業を手がけるペアキャピタルの概要
買収対象となったペアキャピタルとは、主に中小企業から中堅企業を中心にM&A仲介やアドバイザリー業務を提供している企業です。同社の特徴は、幅広い業種・地域にわたるM&A案件のソーシング力(売り手・買い手候補を発掘し、マッチングする能力)と、高度な専門知識を活かしたアドバイザリーを一貫して提供できる点にあります。
近年の日本では、後継者不足による事業承継の問題や、大手企業が自社の成長戦略としてM&Aを積極的に活用する流れが続いています。その中でペアキャピタルのような独立系のM&A仲介会社は、企業の買収・売却や事業譲渡などにおいて、比較的中立の立場から売り手・買い手の間に立ち、多様な案件を手掛けられる点が評価されてきました。

ペアキャピタルは、こうした中小企業M&Aの市場ニーズに応じて、業種を問わず幅広いネットワークを構築しており、クライアントが求めるターゲット企業を素早く見つけてくるソーシング能力が強みです。
間近の業績は下記の通りです。

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■2. 買収側のヒューマンクリエイション社の概要
ヒューマンクリエイション社は、グロース市場(旧マザーズ市場)に上場しており、主にシステム開発やITソリューションを展開してきた企業です。近年ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が日本企業にとって重要な経営課題となっていることから、システムインテグレーションやクラウドサービスなど、幅広くIT関連事業を手がけてきました。
同社の特徴としては、企業向けの業務システム開発やコンサルティング、運用保守を含めたトータルソリューションを提供している点が挙げられます。中小から大企業まで広い顧客層を抱え、顧客ごとのニーズに合わせたカスタマイズ開発で一定の評価を得ています。一方で、IT業界は競争が激化していること、技術変化の速度が速いために常に新しい投資が必要であること、そして国内IT市場の成熟化などが重なり、今後の伸びしろについては頭打ちの懸念が指摘される場面も増えてきました。
そんな中でヒューマンクリエイション社は、単なるIT企業という枠を超えて、新たな収益の柱を探る動きを強化していました。その一環が、今回のペアキャピタル買収につながったと考えられます。

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■3. M&Aのスキームと概要
本件のM&Aスキームについて、公開されているIR資料(プレスリリースや開示資料)を確認する限りでは、大枠としては「株式譲渡」による完全子会社化、あるいは株式の過半数取得による連結子会社化という形が想定されます。通常、M&A仲介会社の買収においては、買い手企業が仲介会社の株式を取得し、経営権を掌握したうえで、その組織を自社グループ内に取り込み、シナジーを生み出すことを主目的とします。
特にM&A仲介というビジネスモデルは人材の専門性に大きく依存するため、買収後の人材流出を防ぎ、既存の顧客ネットワークを最大限活用することがM&Aの成否を左右します。そのため、本件ではペアキャピタルの既存経営陣・キーパーソンのリテンション策(株式譲渡時や譲渡後のインセンティブ設計など)にも配慮がなされていると推察できます。加えて、業務提携契約や役員の兼任などの形で、システム開発事業とM&A仲介事業を連携させ、より広い顧客基盤を活かしたソリューション提供を図るシナリオも考えられます。

今回の買収金額は10億円で修正後のEBITDA×4年分程、また別の見方では純資産に7.5億円程の営業権が加算される事となり、決して割高な買収査定ではありませんが、競争激化するM&A仲介市場では両社にとって良い選択肢であっただろうと想定されます。

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■4. 本M&Aの狙いと背景
以下は私見として書きます。
(1)システム開発業界の成熟化と新たな成長エンジンの確保
ヒューマンクリエイション社は、IT業界の競争激化に伴い今後の市場伸び率がやや鈍化することを想定しており、自社の強みであるITソリューション一本足打法から脱却して、複数の事業軸を持ちたいという思惑があると考えられます。M&A仲介業界は、国内の事業承継需要や再編需要が今後も継続すると見られており、安定した利益確保が見込める領域でもあります。そのため、ペアキャピタルを買収することによって、①ITソリューション事業とは異なる収益源を獲得できる、②M&Aの仲介・アドバイザリー業務によるキャッシュフローをグループ全体で享受できる、というメリットが考えられます。
(2)M&A案件のソーシング力を内製化したい
ペアキャピタルは広範な業種におけるM&A案件を扱っており、売り手企業や買い手企業のネットワークを多く有しています。ヒューマンクリエイション社としては、M&A仲介のノウハウや案件のソーシング力を社内に取り込むことで、自社グループが自らM&A戦略を推進できる環境を整えたいという狙いがあると推測されます。具体的には、将来にわたりIT企業として事業を拡大するだけでなく、魅力あるM&A案件があれば積極的に取りにいく、あるいはITシステム部門として買収先企業へDX支援をセットで提供するなど、多角的な経営展開が可能となるでしょう。M&A仲介を外部に委託するのではなく、グループ内で完結させることで、スピード感やシナジーの最大化が期待できるわけです。
(3)IT企業×M&A仲介のシナジー
ITソリューションに強みを持つ企業が、M&A仲介会社を傘下に収めるメリットとしては、IT導入支援×M&A仲介のクロスセルが挙げられます。たとえば、ペアキャピタルがM&A支援を行う際に、買い手候補企業や売り手企業がDX推進やITシステムの刷新に課題を抱えていれば、グループ企業であるヒューマンクリエイション社のソリューションを提供することで、M&A成約後のPMIプロセスをスムーズに進められます。また逆に、ヒューマンクリエイション社が既存顧客に対して新たな成長戦略や事業再編の提案をする際には、グループ内のペアキャピタルが具体的なM&Aスキームを立案・実行する役割を果たせるでしょう。このように、ITとM&Aアドバイザリーの融合は、企業価値向上の手段を多彩にするというメリットをもたらします。

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■5. 他社事例:チェンジ社によるFundbook買収との比較
近年、IT企業がM&A仲介会社を買収する事例が散見されるようになっています。その代表的な例として取り上げられるのが、チェンジ社によるFundbookの買収です。チェンジ社は自治体向けのDX支援やAI・RPAサービスを提供する上場IT企業ですが、Fundbookは事業承継や中小企業のM&A仲介に特化した急成長中のベンチャーでした。この買収により、チェンジ社は自治体や地方中小企業とのネットワークを活用し、事業承継に悩む企業に対してDXソリューションだけでなくM&A仲介サービスを同時に提供できる体制を整えました。
チェンジ社の事例と今回のヒューマンクリエイション社によるペアキャピタル買収は、以下の点で共通しています。
- IT企業がM&A仲介ビジネスを取り込むことで、多角的なソリューションを提供したい
IT業界の成熟化を見越して、今後も成長が期待されるM&A市場に参入するという構図は同じです。 - クライアント企業の経営課題を総合的に解決する
DX推進が不可欠な時代において、事業再編や後継者不在の問題とIT化の課題は密接に絡み合うケースが多いです。M&A仲介とITソリューションを一体で提供できれば、顧客の課題をワンストップでサポートでき、競合優位性が高まります。 - M&A仲介会社のネットワークを取り込むことで、より多くの事業機会を得られる
Fundbookにせよペアキャピタルにせよ、その仲介ネットワークには売り手・買い手をはじめとする多数の企業情報が蓄積されています。IT企業からすると、それらを自社の顧客基盤に繋げ、さらにはDXサービスの導入ニーズを掘り起こすことができる可能性があります。
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■6. まとめと示唆
今回のペアキャピタル買収は、ヒューマンクリエイション社にとって、今後の中長期的な成長エンジンとしてM&A仲介事業を手に入れる動きと位置づけられます。ITソリューションの領域においては技術革新や競合企業の参入が激化する一方、国内市場は少子高齢化や労働力不足などの課題を抱え、企業が安定的かつ持続的に成長するためにはM&Aがより一層重要な経営戦略の手段となってきています。
また、M&A仲介事業を内製化することによって、ヒューマンクリエイション社は自らがM&Aの主体として買収対象を選定しやすくなり、しかもその過程でペアキャピタルのソーシング力やアドバイザリーをフル活用できるようになります。自社のITソリューション部門とも連携しながら、買収先企業やM&A希望企業に対してIT導入支援やDXのコンサルティングをセットで提供できる点も大きな強みとなるでしょう。
さらに、市場全体の動向としては、上場企業がM&A仲介会社を取り込むケースは今後も増えると考えられます。少子高齢化の流れは経営者の高齢化と後継者問題を加速させ、事業承継や企業再編ニーズをいっそう高める一方で、IT化・DXの遅れによる生産性低下という課題も同時に顕在化しています。そこで、ITソリューション提供会社がM&A仲介を組み合わせることで、単なるシステム導入だけでなく、事業承継や企業再編の段階から深く入り込み、経営戦略の転換をワンストップで支援できる強みに繋がるわけです。チェンジ社がFundbookを買収した事例が示すように、IT企業とM&A仲介会社の協業は業種を超えた新たなイノベーションの契機ともなり得ます。
ヒューマンクリエイション社としては、本件M&Aによって今後「システム開発+M&A仲介」という2本柱体制を確立し、将来的には両分野の相乗効果を発揮しながら、企業価値をさらに高めていこうという戦略が鮮明となりました。これによって、既存事業の枠を超えた収益機会を狙うことが可能となり、新たな付加価値創造やリスク分散にも寄与すると考えられます。
プライマリーアドバイザリー株式会社
代表取締役 内野 哲
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